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──────────────────────── 2005年10月25日  第27号
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│ ┌──┐ │└┘  ミ シ ン の 『 そうだったのか! 』
└┬┘  │ │        〜 ミシンの嘘・ホント、それって常識?!
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▼ 目次
    ●ごあいさつ
    ●本編記事を読む前に
    ●エアスルー糸通しの開発秘話

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 ■ごあいさつ
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  いつもご愛読いただいているみなさん、こんにちは!
  今回からお読みいただいているみなさん、はじめまして!
  数あるメルマガの中から選んでいただき、ありがとうございます。
  島田ミシン商会の嶋田栄司です。

  このメールマガジンは、
   これからミシンを購入したい、
   ミシンのことをもっと知りたい、
   もっと上手に使いこなしたい…

  そんなホームユーザーのあなたが、誤った知識で後悔しないように、
  ミシンの嘘・ホントの解明を通して、ミシンの常識や活用のヒントをお伝
  えしていきます。

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  を楽しんでいただけたら最高です。
  気に入っていただけましたら、お知り合いに転送してすすめてくださいね。

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 ■ 本編記事を読む前に
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  今でこそ、各社工夫を凝らして、ロックミシンの糸通しは楽になってきまし
  たが、ほんの10年ちょっと前までは、糸通しは本当に面倒なものでした。

  それだけに、糸通しの順番を気にしたり、何度もはずみ車を回したりせず、
  ピンセット不要で糸が通せる「エアスルー糸通し」機能は、前代未聞の斬新
  なものでした。発売から10年以上経過しましたが、未だ、これ以上の糸通し
  機能がないのも事実です。

  お盆前に鈴木製作所をお伺いした際、「エアスルー糸通し」と「自動糸調子
  機能」の開発秘話をお聞きすることができました。そこで今回から2回に渡
  って、ご紹介させていただきます。

  前置きが長くなってしまいました。早速いってみましょう。


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 ■ エアスルー糸通しの開発秘話
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  1988年は、ベビーロックにとって節目の年であった。

  他社の競合商品が成長し、性能が上がってきている。加えて生産拠点を海外
  に移し、格安ミシンを市場投入し始めた時期でもあった。画期的な新製品が、
  ベビーロックにも必要だった。

  家庭用1本針2本糸ロックが2本針4本糸ロックに成長するにつけ、販売部門に
  はユーザー・販売店の様々な要望が集まっていた。


 ◆ 糸通しに対する不満の声

  特にロックミシンは、糸を通す順番が決まっており、はずみ車を回しながら、
  ピンセットで糸を通していく必要があった。その作業のわずらわしさ、わか
  りにくさに対する不満が多く寄せられていた。「簡単に、あっと言う間に糸
  が通る」ことへの要求が一番強かったのだ。

  「通す糸が多く、難しそうだからとロックミシンを敬遠している人が多いん
  です」
  「ひとつでもいいから、糸かけ箇所を減らすことはできませんか?」
  「このままでは、せっかくのいいミシンも、ユーザーに受け入れてもらえま
  せん」
  営業担当者やミシン店から寄せられるお客様の声は切実だった。

  視力がよい人でも、ピンセットで細い糸の先端をつまんで、ミシンの内側に
  糸を通していく作業が楽ではないことは、メーカーも実感していた。
  「さらに糸かけ箇所を減らしては、キレイに安定して縫えないどころか、ま
  ともな縫い目さえ形成できなくなる。これ以上、糸かけ箇所を減らすことは
  できません」
  毎回議題にあがりながらも、会議は堂々巡りを繰り返すばかりだった。


 ◆ 逆転の発想

  そんな中、鈴木製作所の佐久間氏は、逆の考えを思い描いていた。
  「糸かけ箇所を減らすのではなく、増やしていけば、最後は1本の長いパイ
  プになると考えたんです。パイプのルーパー(※)ができれば糸口が見つか
  ると思い、作ってみることにしました」

    ※)ルーパー ボビンを使わずに下糸を導いて、針糸などと絡め合うた
      めの部品。

  佐久間氏は半信半疑ながら、真鍮のパイプ材を叩いて1個のルーパーを作っ
  てみたところ、そのままでも縫えそうなルーパーを作ることができた。第一
  関門が突破できたことから、独自に研究を進めていくことにした。


 ◆ 本当に空気で糸がスムーズに送れるのか?

  ロックミシンでは、縫い目を作る過程で糸を引き上げたり、緩めたりする作
  業が必要になる。そのためには、途中でパイプを切り離し、天秤機能を組み
  込まなければならなかった。しかも糸の動きは直線ばかりでなく、曲線も含
  まる。

  「複雑なパイプの中に糸を通すには、圧縮空気しかないと思っていました。
  しかし、本当に空気で糸がスムーズに送れるのか、自信はありませんでした」

  直線や曲線のパイプを数ミリの隙間を設けながら並べ、何度も実験を繰り返
  した。斜めになったパイプには、樹脂製の注射器を差し込んで空気を送り込
  んだ。すると、糸は2カ所の隙間を難なく通過し、最後のU字に曲がったパイ
  プの先から、見事に糸の先が飛び出したのでだ。

  最初は突飛に感じたアイデアも、実現の可能性が見えてきた。手応えを感じ
  た佐久間氏は、実際にミシンに組み込むための設計を開始した。しかし、ま
  だまだ実用性を持たせるには、たくさんの課題を抱えていた。


 ◆ ちょうど良いポンプが見つからない

  注射器では空気を送る量が小さい。カメラのレンズに付いた埃を飛ばすゴム
  ポンプなど、様々な物が試された。掃除用の小型空気ボンベを試すと、送り
  込む空気の量が多く力も強かった。しかし、すぐにボンベが空になり、頻繁
  に買い換えなければならなかった。

  社長を始め、様々な案が出たが、ちょうど良いポンプが見つからず、開発は
  暗礁に乗り上げたかに思えた。

  それでも流体力学についても研究し、納得できるまで、何度も実験が繰り返
  した。そして、適切な空気量がわかってきた。


 ◆ 実験機の完成

  ユーザーのコスト負担も少ない手押しポンプ式を採用する。糸の端を穴に入
  れ、レバーを押すと糸を吸い込み、レバーを放すとポンプが働いて空気を送
  り出す構造を取り入れた。

  最悪、途中パイプが切れていても、エアーで糸が通るように設計し、ステン
  レスの注射針パイプを利用した。

  さらに佐久間氏は、より安全性と確実性を高めるためにも、ルーパー天秤が
  あることで設けなければいけなかったパイプの隙間を無くしたかった。はず
  み車が一回転すると、2個のルーパーの一カ所が、同じ高さになる構造を考
  え出して解決した。

  離ればなれになっていた糸道のパイプが伸びて、ルーパーのパイプに連結し、
  糸の入り口からルーパーの先端まで、1本のパイプでつながるようにした。
  糸が通った後には、糸道のパイプが引っ込め、縫製中はルーパー天秤が自由
  に隙間を行き来できるようになった。


 ◆ 最後の難関を乗り越えて

  しかし、パイプの中にパイプを差し込むため、ルーパーのパイプは2倍の太
  さになってしまった。このままでは、針糸をうまくルーパーがすくえず、目
  飛びトラブルが頻発した。糸の入り口にも工夫が必要だった。

  次々と起きる難題を前に設計を何度も繰り返す中、コンピューター部品で使
  われ始めた射出焼結という加工法に出会った。この加工法を利用することで、
  適切なパイプの太さのルーパーにすることができた。

  実験機で縫ってみると、目飛びトラブルもなく、きれいな縫い目を形成して
  いる。

  さらにレバーを1回押すだけで糸通しができるようにまで改良を重ねた上で、
  構想から4年、「エクリプス(国内では衣縫人−いほうじん−)」として発
  売された。

  不世出の使いやすさは多いに支持され、家庭用ロックミシンとしては異例の
  大ヒットを記録した。その功績から1996年には日本発明大賞を受賞している。



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ミ シ ン の 『 そうだったのか! 』
 〜 ミシンの嘘・ホント、それって常識?!

【発行者】島田ミシン商会 嶋田栄司
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編┃集┃後┃記┃
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  改めて「この機能は、こんな事がキッカケで作ろうと思った」みたいな話を
  聞いて、「なるほど〜」と感心すること、しきりでした。

  開発コンセプトが分かることで、「どんな方に、このミシンをお薦めしたら
  いいのか」「具体的なメリットが何か」が分かることがあります。

  ユーザーの立場としても、メーカーさんに、もっと開発コンセプトをアピー
  ルしてもらうことで、自分にとっての必要性を考える目安になるのではない
  かと思います。

  それに、個性的なコンセプトを明確にすることで、あれもこれも付けました、
  みたいなミシンより、よっぽど有益に活用していただけるように思います。

  その上で、ご自身にメリットの多そうなミシンを選んでいただけるようにな
  ればと思います。

  今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
  次回は完全自動糸調子の開発について、11月8日(火)の発行予定です。
  それではまた。
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